結論がない物語 弦巻楽団#31『センチメンタル』

弦巻楽団は昨年夏にサンピアザ劇場で受賞作『ナイトスイミング』を上演した。これが第6回サンピアザ劇場神谷演劇賞受賞作になった。今年2月には教育文化会館で『ユー・キャント・ハリー・ラブ』を上演した。そして今回は、札幌演劇シーズン2018夏の最後を飾るお芝居である。

このお芝居は1984年に妻を亡くした若い小学校教師を中心に、その後の20年間を描いた物語で、作家だった妻との関係、学校での出来事、新しい妻とその子たちとの関係が描かれる。

時任秀深(ときとう・ひでみ:深浦佑太)は、妻、時任静(成田愛花)が死んでもずっと一緒にいることを誓う。そんな中、時任が勤務する小学校に5年生と3年生の児童が転校してくる。島本由羽(しまもと・ゆう:相馬日奈)と島本真奈(木村愛香音)の姉妹である。小学校では、時任が由羽の担任、広田計曉(ひろた・かずあき:井上嵩之)が真奈の担任になる。妹の真奈は天真爛漫だが、姉の由羽は心を開かない。学年が上がるにつれ、少しずつ時任と打ち解ける由羽。その由羽が時任に対して未亡人である母、島本頼子(袖山このみ)と結婚してほしいとお願いする。静との約束を守り続けている時任は、一度は頼子との関係を断ち切る。その一方で時間が経過することで徐々に静の思い出が薄れていく時任。やがて頼子と再婚。先輩教師の五所瓦恒房(松本直人)は最初は主任教師だったが、時任が再婚する頃には教頭、そして校長になっていた。五所瓦はプライベートでも折に触れて時任を支えていた。
社会人になった由羽は会社勤めをする一方で作家として作品を発表する。その作品がある文学賞を受賞する。そのことがきっかけで、由羽の過去を調べ始める編集者、氷野(村上義典)。氷野は由羽の現在の父親の前妻が作家であったことを突き止め、静の担当編集者であった時任の古い友人、八木園子(塩谷舞)や時任に対して、静の最後の作品の原稿をくれるように依頼する。静が連載していた作品の出版社が倒産してしまい、静の原稿が時任に手渡されたことを知ったからであった。アパートの火災により焼失してしまったかに思われた原稿が八木の手から氷野に渡り、絶版になっていた作品が再出版される。時任の誕生日に由羽の本が出版され、家族4人で誕生日と出版のお祝いしようとするのだが…。

ざっとストーリーを書いてみたが、このお芝居には終わりがない。
事実、弦巻氏はリーフレットの挨拶文で「この何も投げかけてこない、結論のない『物語』は、だからこそ再演に値すると信じています。」と書いている(初演は18年前)。
お芝居の大団円は、お祝いのケーキを前にして、時任が大声で叫ぶ場面で終わる。決してハピーエンドとはいえない終わり方。大声で叫んだ意味を観客に考えさせるような演出。個人的には『ユー・キャント・ハリー・ラブ』のような、最後にストンと落ちるオチが好みだが、このお芝居では、弦巻氏は観客に「終わりの後」を考えさせることを狙ったのだろう。

弦巻楽団では「深浦押し」の私(笑)。感情表現がうまい役者さんだなと思う。大声の場面でも声が割れないのはさすが。また冷たいほどビジネスライクに徹した編集者を演じた村上さんも好感度大だった。うまい。もっともこのお芝居で深浦さんや村上さんよりいい味を出していたのは、次女を演じた木村さんと教師役の井上さん(劇団・木製ボイジャー14号)だった。暗くなりがちなストーリーの中で、この二人の掛け合いがお芝居に明るさをもたらしていた。どちらもお芝居がうまいので、あのような掛け合いでもストーリーを壊さなかったのだと思う。いい味という点では先輩教師を演じた松本さんもひょうきんな台詞や動きで笑いを誘った。

小学校教師という設定ではあり得ないことがひとつ。現在の制度では20年も同じ学校に勤務することはあり得ない(私立ならあるが)。まして五所瓦のように、ひとつの小学校で主任教師から教頭、校長になることもない(途中転出して戻ってくることはあるが)。
また、アパートの火災ですべて消失してしまった静の原稿が、後から出てくるのもしっくりこなかった。途中で時任が静に「すべて焼けてしまった」と話していたのだから(もちろん、静はイメージとして登場していたのだが)。最後の原稿が手書きだったという含みを持たせていたが、このあたりはもう一工夫必要かもしれない。

このお芝居ではセットと音楽が実に良かった。シンプルな角柱が4本だけのセットだったが、場面転換で立てたり寝かしたりして、その「場」を巧みに表現していた。場面が変わるたびに動かすのは役者さんたちにとっても大変だったかもしれない。どこにどう置くかを間違えるわけにはいかないので。またメロディラインがステキな音楽が効果的に使われていた。

早くして妻を失った夫の物語という視点で考えれば、『本当にそうなのかなぁ』と思わないでもない。いつまでも亡くなった妻の影を追い続けるというのも、めめしいといえなくもないし。こればっかりは分からない。

上演時間:1時間45分

2018年8月19日(日)14時

投稿者:熊喰人

text by 熊喰人(ゲスト投稿)

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